いびつな幸福感

ごく幼い頃持っていた観念として
一生懸命あるいは苦労をした分に応じて幸せになるというものがあった

育った地域はこの世の果てといった風情
掃き溜めに寄せられた努力の足りない人たちの住む処と見ていた
両親のことも人として劣っていると思っており

人に文句を言わせないよう周到に準備し
精一杯の努力をすれば必ず豊かな生活が巡ってくるはず
そうでないのは人として劣っているからだと確信していった

年端のいかない子供にはどうすることもできない
この世の惨状が次々とやってきて荒波にもみくちゃにされた

どれほど叫び訴えても
わたしの神は現れない

真面目に生きても日の目を見ず
またそのように生きれば寝首をかかれ
どんな努力も泡と消え

自分を守るために全面武装して
どこにも安息できず張り詰めて毎日をやり過ごす



結婚して急転直下
豪奢な住まいに外車をあてがわれ
服でも食事でも旅行でも思いのままに

やっと報われたのだ
これまでの苦労が今やっと結実したのだ
わたしの神がやっとこちらを向いて祝福するようになったと
 自分が何かに合格したように感じた

豊かな生活が与えられることは神に認められたことだと思っていた 
ポイント制になっていてこれだけ溜まったからこれを貰えますとでもいうように

モノ・カネに恵まれないということは人としてまだまだだということであり
またそれを失うことは人としてのテストに落第したことになる



私は恵み・幸せというものと自分の現状とを
いびつに結んでそういう風に見ていた