豊かさを垣間見る

一日中、車が途切れることのない喧噪に囲まれた一角。
 そこだけ結界が張られたような、怖さを伴った静けさでそれは現れた。
 うっそうと茂る木立。車で登ればウイリーしてしまうほどの急坂。
私と犬の息遣いしか聞こず、この世から人が消えてしまったかのよう。
パッと開けた視界には豪奢な館がズラリと建ち並んでいた。



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こんなところがあったんだ…
毎日の犬の散歩でこの界隈は知り尽くしたと思っていたのに、まったく知らなかった。
嗜好を凝らした贅沢なしつらえから豊かさが溢れ出ている。
臆することなく享受し、揺らぐことなく堂々と、何者からも隠れ得ない輝きと彩り。

こんなにも美しい世界があるのだな…
息を飲むほど圧倒されたあと、徐々にそれらと溶け込むような感覚に浸り、
幸せがめくれあがって何層にも私を取り巻いていた。

四次元にでも入ってしまったかな…
少し寒気がした。
家々の向こうに自分の家は見えている。いつもの通りに繋がる道もわかっている。
それでもここは別天地だった。

 

 

知っているはずなのに、知らなかった。
知っていると思っていたら、そこにあるもっと深い豊かさに気付けなかった。

私は知らないので、こうして奇跡を垣間見ていく。