土砂降りの雨の中

土砂降りの雨の中、家路に着く。
通りは昼間だというのに誰ひとりおらず、
憐れなほどずぶ濡れになった道路に、信号が滲んでいる。

朝一番スポーツクラブで体を鍛えた後、
近くのレストランで働けたらと面接を受けてきた。
主婦も募集とあったけれど年齢が近そうな人は見当たらず、
店長もスタッフもうんと若くて、これは場違いなところに来てしまったと思った。
また面接に落ちることになりそうだな…

職安の紹介書を付けよ、職務経歴書を添えよなどと細かいことを強いておきながら、
何週間も連絡を寄越さず、履歴書さえも返さない、
及第点以下の求職者は無視・黙殺というのがこの地のやり方なのか。

ここへ越してきたのが間違いだったのかもしれないな…

家族とも縁を切った。肉親も捨てた。友達も要らない。
誰も知らないところで初めからやり直したかった。
どこへも行く当てがなかったから、どこへ行っても良かった。
だからここへ来てみた。

間違いだらけの人生なのだ。
あの人と結婚したのも、あの会社を選んだのも、あの学校に入ったのも…
どう生きて良いのかわからなくて、いつも間違えて生きてきた。
憧れの地へやってきたけれど、誰も私を雇ってくれない。
いよいよ数十日後、資金も尽きて窮に瀕する。
結果こうだ。また間違えたのだ。

もうこの命を持っていってくれ。
やること為すこと間違いならば、
それで死に至ってしまうのならば、
いっそのこと今、この命を持っていってくれ。

土砂降りの雨が私の眼を流れる。構わない。どうせ誰もいないのだ。



泣きながら歩くなんて、小学生以来だなと気付いた。
学校からの帰り道、駅の階段を同級生の男の子に突き落とされた。
ビックリして、痛くて、泣きなが歩いてたら、
通りすがりのおじさんに泣くんじゃないと怒られたな。
捻挫していたことがわかって病院で巻かれた包帯。
それを大袈裟だと怒った母に外されたんだったな。
そして男の子たちのお母さんが謝りに来てくれたとき、
母は気持ちの悪いほどの愛想を振りまいて、
そんなことぐらいで大袈裟にするからとまた怒られたんだっけ。
私はその時に自分や身内の気持ちよりも、他人に良い顔をするべしと学んだんだ。
やがて自分が産んだ子供にそれをしたな。

溢れ出てきた記憶も雨と混ざって流れていった。




自分の幸せのために真剣に、
これはと思うことに身を注ぎ、
それで命が果てるなら、
もう死んだって構わない。